沖縄は今でも戦時下の無法地帯だ
山崎 今回の対談は沖縄の問題から始めたいと思います。先日、沖縄で女性強姦殺人事件が起こりました。沖縄ではこの事件に対して激しい怒りの声が上がっています。
佐藤 夜8時頃にウォーキングしていた20才の女性を強姦目的で襲って、ナイフで刺して殺したということです。しかも最初から遺体を運ぶスーツケースを用意していたというんだから、計画性がある。とんでもない話です。
山崎 沖縄には人権が全くないということですよね。
佐藤 そうです。つまり、沖縄はまだ戦時下だということですよ。米軍の軍人や軍属が戦時下の無法地帯だと思っているから、ああいうことができるんです。だから今、沖縄では戦時中の暴行事件も思い出されていて、怒りが沸騰しています。
山崎 今回の事件の容疑者は、元海兵隊員で嘉手納基地軍属のシンザト・ケネフ・フランクリンという男です。僕は最初に「シンザト容疑者」と聞いた時、「シンザト」というのは沖縄に多い名前ですけど、どこの人かわかりませんでした。
佐藤 沖縄の新聞も当初は「シンザト容疑者」と報道していたけども、途中から全て「ケネフ容疑者」に切り替えました。彼は沖縄の女性と結婚して「シンザト」を名乗っていましたが、シンザトという名前が独り歩きすると、沖縄人の犯罪か、あるいは沖縄系アメリカ人の犯罪ではないかという誤解を招くことになりますから。
それと、彼の奥さんと子供は今回の事件と関係ありませんからね。それで沖縄の新聞は「ケネフ」という彼自身の名前で報道することにしたわけです。
山崎 しかし、これほど重大な事件が起こったにもかかわらず、安倍政権の対応は冷淡ですね。翁長雄志沖縄県知事は官邸で安倍総理と会談し、伊勢志摩サミットのために来日するオバマ大統領と直接話をする機会を与えてほしいと要請しました。だけど、菅官房長官は外交や防衛は政府がやるものだとして、それを拒否した。
佐藤 あそこに端的に差別が現れています。なぜ「オバマ大統領との会談を実現するために全力を挙げます」と、沖縄に寄り添おうとしないのか。オバマが広島に行く時には、広島県知事や広島市長とは会わせるわけでしょう。71年前の原爆投下について異議申し立てをし得る広島県知事や広島市長は会わせるけど、現在進行中の沖縄人殺害事件について異議申し立てをし得る沖縄県知事は門前払いする。これは理屈が破綻していますよ。
安倍政権がこんな対応をするのは、沖縄人を同胞と思っていないからです。あるいは同胞でも二級市民と見なしている。例えば、東京の六本木で夜8時頃に日本人の女性がウォーキングしていたら、在日米軍の機関誌を発行している星条旗新聞社からアメリカ人軍属が出てきて、いきなり強姦しようとした。それで言うことを聞かないから刺し殺して、トランクに入れて明治公園に捨てたと。もしそんなことが起きればどうなりますか。
山崎 政府は強く批判するでしょうし、大暴動が起こるでしょうね。それこそ再び日比谷焼き討ち事件のようなことになるかもしれない。
佐藤さんのおっしゃるように、安倍政権の対応はダブルスタンダードです。それは安倍政権の拉致問題への対応と比べるとわかりやすいと思います。安倍政権は北朝鮮の拉致問題に厳しく対応し、経済制裁までやっていますよね。日本のマスコミも北朝鮮を批判しているし、多くの日本人が北朝鮮に嫌悪感を抱いていると思います。
しかし、それでは北朝鮮に拉致された少女と、沖縄で殺された20歳の女性と、一体何が違うのか。北朝鮮の拉致問題に厳しく対応するなら、沖縄の強姦殺人事件にも厳しく対応しなければ辻褄が合いません。
佐藤 沖縄が怒っているのは、「日本人は果たして、日本人の命と沖縄人の命を同等に考えているのか」ということに対する怒りですよ。殺しというのは、その人間の可能性を全て奪うものです。それなのに、日本人は今回の事件について、明らかに日本人が殺された場合と同じようには怒ってない。沖縄はそれに怒っているんです。
日本人は沖縄を犠牲にしてもいいと思っている
―― 沖縄ではこれまで、普天間基地をはじめ海兵隊の問題に注目が集まることが多かったと思います。しかし、今回の事件を起こしたのは嘉手納空軍基地の軍属です。これによって、普天間基地だけでなく嘉手納空軍基地への反発も強くなる可能性はありますか。
佐藤 これまでとは位相が違いますね。沖縄の世論は全基地閉鎖に向かっています。安慶田光男副知事も「このままでは全基地閉鎖になる」と、嘉手納基地閉鎖要求を示唆しています。
しかし、現状で沖縄県が公式に全基地閉鎖を主張することは、官邸や外務省、防衛省にとっても望ましいことなんですよ。どういうことかと言うと、もし沖縄が全基地閉鎖や日米安保廃棄など極端な主張をすれば、政府としては「沖縄がわがままを言っている」ということで、沖縄の主張を一切聞かなくて済みますから。
沖縄と日本の力を比べると、沖縄は圧倒的に弱い立場に置かれています。彼我の力関係において圧倒的に力が弱い場合、いくら最大限の要求をしたところで、それが通ることはありません。それにもかかわらず最大限要求するということは、政治的には何の成果も出なくていいということを意味します。これが政治のリアリズムです。
それから、もし沖縄が全基地閉鎖を訴えれば、日本政府は力を行使して強権的に出てくるでしょう。翁長雄志知事もそれが痛いほどわかっているから、沖縄の世論の中にそういう意見があることを踏まえつつも、「全基地閉鎖しろ」とは言っていませんよね。
その意味では、今は沖縄にとっても正念場なんですよ。現実に今回のような事件を減らすためには、感情に任せて全基地閉鎖を主張するのではなく、要求を辺野古新基地建設反対と海兵隊を追い出すことに留めるべきなんです。安倍政権にとっては現実的な要求が一番困るんですよ。極端な要求なら聞かなくていいけど、現実的な要求なら聞かざるを得ないから。だから、沖縄行政の立場としては、あくまでも辺野古や海兵隊に留めると。それが沖縄の責任ある政治家のやり方だと思います。
山崎 沖縄でこういう事件や事故が起こる度に、「沖縄の問題は日本国民全体で考えるべきだ」と言われますよね。だけど、僕は率直に言って、もうそれは不可能だと思います。
佐藤 私もそう思います。日本国民全体で考えてもロクな結果になりません。多数者が差別感情を持っている場合は、民主主義的に問題を解決しようとしても、差別感情を拡大することにしかなりませんから。……
以下全文は本誌7月号をご覧ください。
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