再来年は明治維新１５０年を迎える。靖国神社は幕末維新の動乱に斃れた人々の御霊を祭祀している。だが、祀られているのは戊辰戦争・西南戦争で勝利した「官軍」であり、敗北した「賊軍」は今日まで鎮魂されていない。
しかし我が国の歴史では、常に勝者が敗者を鎮魂してきた。源平合戦のあとは『平家物語』、南北朝の動乱のあとは『太平記』が編まれ、敗者がどういう想いで戦い、そして死んでいったかという物語が語り継がれてきたのである。
これまで本誌はこのような観点から靖国神社の在り方を問うてきた。折しも靖国神社の徳川康久宮司が「幕府軍や会津軍も日本のことを考えていた。ただ、価値観が違って戦争になってしまった」と発言し波紋を呼んでいる。
明治維新１５０年を迎えるにあたり、石原慎太郎氏と亀井静香氏に靖国神社の問題を中心に我が国はどうあるべきかを語り合って頂いた。
靖国神社は西郷隆盛をお祀りせよ
―― 靖国神社の徳川宮司が共同通信のインタビューで、「賊軍」に同情的な見解を示し議論を呼んでいます。
亀井 ６月29日に靖国神社に行って、徳川宮司と話してきました。そうしたら、宮司が「今日は靖国神社の創立日です」と言うんです。私は知らずに行ったけど、なんだか御霊に招かれている気がしました。
私は毎年靖国神社にお参りしていますがね、ずっと靖国神社は賊軍もお祀りすべきだと言っているんです。靖国神社はお国のために命を落とされた方々の御霊を慰めるためのものでしょう。「一君万民」「万民平等」と言いますが、お国のために戦った人間に差別などありません。
それなのに実際には、靖国神社は戊辰戦争で敗れた幕府軍や会津藩はじめ奥羽列藩同盟の人々、西南の役で死んでいった西郷隆盛たちをお祀りしていない。しかし彼らも国を想いながら戦ったことに変わりはない。だから恩讐を超えて全ての犠牲者をお祀りするべきなんです。
石原 亀ちゃんの言う通りだよ。僕の前提はね、歴史工学的に言うと、戦争っていうのは進歩も含めた、大きな社会の変化変動の引き金になるんですよ。明治維新の内乱内戦、日清日露、二度の世界大戦もそうです。それゆえ今日の日本が出来上がるまでに、いくつもの戦争があった、もっと言えば必要とされた。
そこで犠牲になった人々は、今日の日本を作った大きな変化変動の素因なんでね。そういう人たちのリアクションやエネルギーというものが蓄積して一つの起爆剤になって明治維新を確立したわけでしょう。戊辰西南は日本が脱皮するために必要な戦争だったんです。ああいう内戦内乱を経て初めて日本の近代化というものは進んでいった。そういう犠牲者たちの功、まあ何が功績なのかという話になるんだけど、それはやっぱり無視できないと思いますよ。
長岡藩の河合継之助とか西郷さんとかさ、戊辰戦争・西南戦争の犠牲者だってみんな仕方なしに戦ったんだ。そういう人たちを慰霊しないのはおかしい。
亀井 だから逆に言うと、西郷南洲や白虎隊がいなければ日本の近代化はできていないんだ。物事は一方だけで出来上がるものじゃない。お互いに競ったり戦ったりする中で成っていくものなんです。そういうことも国家民族のためになっているんだから、勝ち負け関係なく合祀して鎮魂すればいい。
今の世界はどんどん分裂状態に入っている。「魂の分裂」と言ってもいい。富の格差だけじゃなくて、民族、宗教、価値観を含めて、大分裂が始まっている。イギリスのＥＵ離脱もアメリカの大統領選もそうです。世界中がバラバラに分裂分散しようとしている。
その中で八百万の神々が住まう日本は、一つにまとまっていくという方向性を示すべきです。日本では死んだらみんな神様仏様になるし、あらゆる宗教が共存している。神仏習合だけではなくて、キリスト教も一緒になっているでしょう。教会で結婚式を挙げて、クリスマスを祝ったあとは、お寺の除夜の鐘を聞いて、初詣で神社に行くということをやっている。
石原先生は文明史的な観点から賊軍も合祀すべきだと仰ったけれども、世界が分裂に向かう中で、全てを包み込んでいこうという日本文明も文明史的に非常に大切な時期に差し掛かっていると思います。であるがゆえに、まず南洲や白虎隊をお祀りして日本自身が一つになるということをやるべきですよ。日本の文化伝統に従って、われわれの心をすっと真っすぐ、一つにしていくことが大事なんだ。「隗より始めよ」です。
石原 もっと下世話な言い方すると、今でも長州の山口県の人と会津の福島県の人は仲悪いんだ。安倍晋太郎さんからは、福島の女性と山口の男性が結婚したいというと、両家とも猛反対すると聞きました。同じ日本に住んでいて、未だに婚姻すら滞ってできない。そういう気持ちのわだかまり、もっと言えば怨念を取り払うために、維新の内乱内戦の犠牲者を鎮魂するのは良いことじゃないかなあ。
亀井 長州はひどいことをやった。会津を占領して、白虎隊も含めて会津藩の犠牲者の死体を片付けさせないで野晒しにした。長州はそこまでやったんだ。だから今でも山口の人が福島に観光に行ってタクシーに乗ると、「どこから来たの」「山口から来た」「降りてくれ」という状態なんだ。私の会社に会津出身の役員がいるけど、行きつけの店の女将が山口出身だと分かってから一切行かなくなった。だから晋三総理も長州なんだから、まあ総理がやることではないけれども、ご自分が総理の間に賊軍の合祀なんかをそれとなくバックアップすればいいんですよ。
私は色んな人に声をかけているけど、賊軍の合祀に反対する人はいないね。山口３区の河村健夫議院運営委員長は「長州と会津の長い間の怨念をどうにかしなければいけないと思っていた。ぜひ一緒にやりたい」、鹿児島５区の森山裕農水相も「西郷南洲をぜひ合祀したい」と言ってくれた。遺族会や崇敬会にも声をかけていますが、みんな賛成してくれます。崇敬会会長の扇千景さんも理解を示してくれました。
福島の人は「やってくれ」というよりも、「そっとしておいてくれ」という感じかもしれない。東北の人は控えめだからね。それでも賊軍の合祀はぜひ実現したい。その時は石原先生も発起人でお願いしますよ。
石原 俺は暴走老人だかんな（笑）……
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