植草一秀 売り渡される日本

(前略)

普天間・原発で米国にひれ伏す安倍政権

 2月23日に行われた日米首脳会談での米国の対応は極めて冷淡だった。初めての首脳会談でオバマ大統領が安倍首相に贈ったのは、出迎えなし、晩餐会なし、共同記者会見なし、の「3本のイヤ」であった。日本のメディアは日米会談成功などと御用報道を繰り返したが、米国ではメディアも大きな取り扱いをしなかった。

 このことから、安倍首相は焦燥感に駆られているようである。米国の後ろ盾なくして日本における政権長期維持は覚束ない。2006~07年の短命政権の二の舞を演じぬよう、安倍氏は米国に対する忠誠を宣言しているように見える。

 訪米に先立って、安倍首相は牛肉輸入制限の緩和という貢ぎ物をあらかじめワシントンに贈っていた。そのうえで、さらに、三つの大土産を持参してオバマ大統領に拝謁したのである。三つの献上品とは、辺野古移設推進の確約、TPP交渉参加、原発推進方針のことだ。

 日本の主権者国民の意思など無視して、わが身の保全を図るため、米国にひれ伏す対応が示されている。これだけの土下座外交を展開しながら、「3本のイヤ」しか下賜されないのだから哀れである。

 三つの問題はいずれも、国論を二分する日本の主権者国民にとっての最重要事項である。国民不在、国民主権否定の蛮行と言わざるを得ない。

 サンフランシスコ講和条約第6条には、日本が独立を回復した場合、占領軍は速やかに日本から撤退することが明記された。占領軍の駐留に終止符を打つことが、日本独立の証しだと言ってもよいだろう。ところが、60年以上の時間が経過するのに、いまだに広大な日本領土が米軍に占領されたままの状態にある。その大半の負担は沖縄に押し付けられている。

 沖縄県民が普天間の辺野古移設に反対するのは当然のことであるし、これは沖縄県民のみならず、日本国民の総意でもある。その最重要の点を無視して、安倍政権はいま、辺野古移設を具体的に強行し始めている。

 沖縄の仲井真知事は、2006年の知事選で、最終局面で徳洲会が仲井真支持に回ったことで当選を掴みとった。徳田毅氏を糸数陣営から引きはがして仲井間陣営に組み入れたときの政権が安倍晋三政権である。安倍政権には、個人的な恩義があるのだ。仲井真知事の変節が蠢き始めている。

 福島の原発事故から2年の時間が経過した。安倍政権は野田政権が宣言した福島原発事故終息宣言を否定した。つまり、福島原発事故はいまなお持続しているのである。原発で作業に従事する労働者は過酷な被曝労働を強制されている。札束で頬を叩いて被曝労働を強制することこそ、「差別」の本質である。

 現代社会の戦争では、戦争指揮者は常に安全な場に身を置いて、指揮命令だけを行う。被害に遭遇するのは戦争の最前線にいる市民と兵士だけである。戦争こそ、現代の「差別」構造の究極の姿であるが、これは原発の構造とまったく同一のものだ。

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