日本会議を束ねているものは何か

「権利を抑圧したい」という欲求

 日本会議には様々な意見を持つ人たちが集まっているため、ある問題について統一見解を出すということが難しい状況にあります。例えば、天皇陛下をどのように捉えるかについて、日本会議会長である田久保忠衛氏と櫻井よしこ氏、百地章氏の見解は、彼らの発言を見る限り、大きな違いがあります。

 もっとも、日本会議に集まっている人たちが全ての問題で意見が異なっているというわけではありません。もし全ての問題で見解が違うならば、一つの団体のもとに集まることはないでしょう。たとえ多くの問題で意見が異なっていたとしても、何か重要な部分で共通するものがあるからこそ、彼らは日本会議のもとに集まっているのです。

 それでは、その共通性とは何か。それは女性や子供、少数民族を抑圧したいという欲求、つまり、「権利を抑圧したい」という欲求です。

 ここでは、弊誌9月号に掲載した、菅野完氏と白井聡氏の対談を紹介したいと思います。なお、菅野氏と白井氏の対談も収録した新著『日本会議をめぐる四つの対話』を、12月11日に弊社より出版予定です。ご一読いただければ幸いです。また、12月9日には本書出版を記念して渋谷のLOFT9でイベントを開催いたします。是非ともご参加ください。(YN)

本会議を語り尽くす



日本会議の狙いは憲法24条だ

菅野 日本会議が最も熱心にやっていることは、フェミニズム運動への批判です。彼らはアンチ・男女共同参画運動、アンチ・子供の権利運動のようなことを熱心にやっているんです。彼らの言っていることは要するに、権利を主張するなってことなんですよ。

 その意味では僕は「日本会議」ってよくつけた名前だと思うんです。権利を主張するなというのは、まさに日本の在り方そのものですよね。日本のおっさんのメンタリティってそういうことじゃないですか。

白井 権利とかうるさいんだよと。言挙げするなと。

菅野 理屈を言う奴が嫌い、筋道立ったことを言う奴が嫌いっていうのが、日本のおっさんですから。

白井 それはいわゆる右派運動をやっている人たちに共通するエートスですよね。彼らが誰に対して憎悪をむき出しにしているかと言えば、在日朝鮮人、在日コリアンです。

 なぜそうなってしまうのかと言うと、そもそも前提として外国籍を持って日本に住む人たちは、納税しているにもかかわらず参政権に代表される市民権レベルでは無権利なんですよ。わけても在日コリアンの人たちは、かつて日本人であることを強いられた経緯があるにもかかわらず、様々な権利にあずかれない場所に追いやられてきた。だから彼らは権利獲得運動をずっとしてきたわけですよね。

 ところが、日本人一般は権利の何たるかを理解していない。ゆえに、権利を主張する奴は単にうるさい奴だと思われる。こういう社会で権利を主張する人たちがいると、不当にも特権を要求しているように見えるんですよ。だから在日コリアンはおかしいということで憎悪の対象になっているんです。それは結局、日本人は近代的社会をつくったように見えて、実は利権は理解できても、権利というものをいまだに理解できていないということです。

菅野 おっしゃる通りです。日本会議の会員の中には、自分で組織を持ち、「行動する保守」として保守運動をやっている人たちがいっぱいいます。彼らは日本会議の中で運動するときには、一応差別はいけないという常識はあるので、アンチ・朝鮮人、アンチ・韓国人とは言いません。しかし、一歩外に出れば平気でそういうことをやっています。北海道の日本会議なんかはまさにそうです。

白井 対象が民族的マイノリティであれ女性であれ子供であれ、およそ権利という言葉にほとんどアレルギーに近い反応を示すということですね。

菅野 だから日本会議は現行憲法について、まず24条を改正したがっているんです。24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」というものです。彼らはこの「両性の合意のみに基く」という言葉を目の敵にしています。

 こんなことを言うと左派の人たちから怒られるかもしれませんが、24条から「両性の合意のみに基く」という文言を取り除くことは、9条を変えて戦争をできるようにすることよりも、文明的にははるかに問題だと思います。憲法の中に近代をまるっと否定するコードが組み込まれてしまうわけですから。日本国憲法を根底から覆すためには、9条を変えるのではなく、24条を変えるのが一番効率的なんですよ。