植草一秀 安倍売国政治の系譜

蹂躙される日本銀行法

 日銀の体制が一新された。安倍晋三首相は日銀総裁には自分の考えに共鳴する人を選ぶと公言し、事実、自分の考えに合う人物を総裁、副総裁に起用した。日本銀行法には「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は尊重されなければならない」と明記されている。金融政策運営は日銀の専権事項なのだ。内閣総理大臣が金融政策を指揮するのは日本銀行法に反している。

 安倍氏の論法で日銀人事が実施されると、日銀総裁の5年の任期満了が来るたびに、日銀の幹部はその時点で、たまたま、内閣総理大臣の地位にある人物の個人的な考え方に振り回されることになる。インフレが大好きな総理大臣の任期中にたまたま日銀人事があるという、それだけの理由で、猛烈にインフレを促進する金融政策が実施される。その任期が終わるときに、たまたま、デフレが大好きな総理大臣が存在していたら、今度は強烈にデフレを誘導する金融政策が実施されることになる。

 安倍氏の方針はこのような事態を引き起こすことを是認するものだ。このような批判がなぜ巻き起こらないのか。日本のメディアの批判精神の欠落は致命的である。

 中央銀行を政府の圧力から遮断された位置に置くという、日銀の独立性尊重の精神が完全に踏みにじられている。実際、黒田東彦、岩田規久男の両氏による新体制が発足して最初の金融政策決定会合で、大胆な金融緩和措置が決定された。驚くべきは9人の議決権を有するメンバーが全会一致で金融緩和措置を決めたことだ。総理が総理なら金融政策会合のメンバーもメンバーだ。

 白川総裁時代の政策方針と全面的に異なる政策提案が示されて、これまで、その方針に反対していた委員が、なぜ突然変異を遂げるのか。自らの学識と見識に基く確固たる信念に基づく判断を下しているのではなく、単に時の権力者に付和雷同するだけの委員なら存在意義はない。高い報酬はムダ金になる。総裁の提案に常に賛成するロボットを置いておけばよいと思われる。

迫りつつある資本逃避の恐怖

 日本銀行はマネタリーベースを年間60兆~70兆円のペースで増加させること、国債やETFの購入額を今後の2年間で2倍にすることなどを決めた。この新しい政策方針によると、日銀は1年間に日本政府の財政赤字よりも多い金額の国債を購入することになる。実体的には、財政法が禁止している国債日銀引受以上の措置を日銀が取ることになると言ってよい。日銀は激しいインフレを引き起す方向に前のめりになった。

 金融市場は日銀の追加金融緩和措置を受けて円安・株高の反応を示した。安倍首相の鼻息はますます荒くなり、御用メディアは毎日のように「アベノミクス」の言葉を報道で躍らせている。このまま、参院選まで突っ走って、安倍首相は安倍政権支持・補完勢力で参院の3分の2を占有しようと目論んでいると思われる。

 しかし「好事魔多し」である。メディアが安倍政権絶賛を繰り広げる舞台の隅で、すでに変化の兆候が生まれ始めている。アベノミクス誕生予想に伴う円安で巨万の為替益を稼いだと言われるヘッジファンドの雄=ジョージ・ソロスが4月6日に米経済専門チャンネルのCNBCに登場して、「円安の雪崩が起こるかも知れない」とつぶやいた。

 日本の債券利回りはわずかに0・5%の水準。日本円の下落率が年間5%に達すると、海外の円債投資家のリターンはマイナス4・5%になる。これはたまらないと判断して、資本が日本から海外に一気に逆流する。資本逃避=キャピタルフライトと呼ばれる現象のリスクを指摘した。……

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