植草一秀 日経新聞の消費税増税影響軽微報道が完全破綻

東日本大震災以来の景気失速

 4月に引き上げられた消費税率。税率は5%から8%になった。社会保障負担の増加を含めて国民負担は9兆円も増加する。日本のGDPの2%にも及ぶ大増税である。1990年のバブル崩壊以降、日本経済は25年にわたる長期低迷を続けている。2008年から09年にかけてはサブプライム金融危機に伴う大不況があった。2011年には大震災と原発事故に見舞われ、未曽有の危機に直面した。

 2012年12月に安倍政権が登場して半年間の円安、株高が生じて、2013年前半に経済成長率はわずかに浮上した。ところが、2013年7─9月期、10─12月期の実質経済成長率は年率で1・4%、マイナス0・2%に低迷した。このなかで安倍政権は消費税大増税を強行実施するとともに、年度末に編成する補正予算の規模を13兆円から5・5兆円に圧縮した。

 2014年4月以降の日本経済が急激に悪化することは明白だった。「アベノミクス」の掛け声の下で5年ぶりにわずかに浮上した日本経済を政策逆噴射で撃墜することは日本国民にとって大きな損失であるが、財務省に支配された安倍政権は無謀な逆噴射政策に突き進んだのである。

 このなかで見落とせないことは、マスメディアが消費税増税の影響を軽視する報道を展開し続けたことだ。日本経済新聞は年初来、「消費税増税の影響軽微」を強調する根拠乏しい観測記事を1月5日、2月21日、3月23日、そして3月24日に一面で報道し続けた。その日本経済新聞が、7月末から8月にかけて、「増税後の〈谷〉予想以上」、「景気、持ち直し鈍く」の見出しを付けた記事を臆面もなく掲載し始めた。

 消費税増税の影響は「軽微」ではなく「甚大」であった。8月13日に発表された2014年4─6月期の実質GDP成長率は年率マイナス6・8%と、東日本大震災以来の激しい落ち込みを示したのである。日本経済新聞の「消費税増税影響軽微キャンペーン」は財務省の指導に基く虚偽報道=大本営報道であったと言わざるを得ない。権力迎合姿勢を強めるマスメディアの姿勢が、この国の進路を危ういものにしている。

虚偽報道が経済の混乱を拡大

 財務省がTPRという名の情報統制活動を展開していることは本欄でも何度か取り上げてきた。財務省は1985年に中曽根政権が「売上税」を導入しようとした時期に言論統制活動であるTPRを創設した。筆者は初代事務局員として情報統制活動の末端を担ったために、その詳細を悉知している。

 報道機関の最重要のニュースソースは財務省である。また、財務省は公取委を通じて新聞の再販価格維持制度の生殺与奪の権を握っている。新聞社の幹部は財務省所管の審議会や税制調査会の委員に就任することに喜びを感じる権力迎合の属性を有する。財務省の指令に従って日本の報道機関が消費税増税推進の報道を展開することは、報道機関として言語道断の行為であるが、残念ながら、これが日本の現実である。

 消費税増税の影響軽微のキャンペーン報道が展開されたのは、こうした情報操作によって人々の経済行動を誘導することを目的としたものであったと推察される。

以下全文は本誌9月号をご覧ください。